社員旅行(中編)





ちょっとした好奇心で、暗闇の3階非常口の踊り場に閉じ込められて

しまった、浴衣姿でスリッパ履きの酔っ払い二人

非常口のドアはやっぱり開きません。

あとは真っ暗な非常階段を降りて行くしか、助かる道はないようです。

これが今だったら携帯電話で誰かを呼んで無事に解決!と、なるとこ

ろですが、当時はポケベル時代です。携帯電話は持っていません。

踊り場には公衆電話も無いようです。

っていうか、あったら怖いです。霊界直通電話でしょう、きっと。


か〜すけ
「もうドアはあきらめて、階段を降りようぜ」



「そうですね…でも暗くて全然見えないですけど、階段って本当に
 下まであります?もし、途中で階段が無くなってたら…」

か〜すけ
「バカ!そんな事あるわけねーだろ!階段が無かったら火事の時
 どうすんだよ。非常階段になんねーじゃん!」


と言いながらも「××ホテルで火災発生!非常階段の管理不備で

大惨事!」
な〜んていうのニュースが頭をよぎります。

ちょっと不安になりながらあらためて踊り場を見渡すと・・・

足元は塗料が剥げててマダラになってるし、手すりもなんだか錆だら

け!
でも、階段が抜けちゃうようなヒドイ状態でもないようなので無理

やり良しとします。


か〜すけ
「じゃあ行くぞ!足元に気をつけろよ」



「ゆ、ゆっくり行きましょうね」



もちろんMに言われなくても、ゆっくり降り始めます。

階段を3段降りたところで足元は見えなくなりました。

もう3段降りたら自分が見えません。Mも見えません。真っ暗です。

2階の踊り場がやたら遠くに感じます。

手すりにしがみついて一歩、一歩、階段があるのをで確認しながら

降ります。


か〜すけ
「おい、大丈夫かM?」



「なんとか大丈夫っすよ」



今、一緒にいるのがナイスバディのお姉ちゃんだったら手をつないで

降りるところですが、残念ながら相手はMです。

もつなぎたくありません。

手をつないでがめばえても困ります。

でも怖いので声だけはかけてました。

すると突然、左側の林から「ホゥーホゥー」とフクロウの声が!


ぐはぁ!!


声が出そうになりました。でもこらえました。頑張りました。



「うわっ!フ、フクロウが鳴いてますよぉぉぉ」

か〜すけ
「そんなんでビビるんじゃねーよ!フクロウだって鳴きたい時もある
 んだよ。それが秋ってもんだ!」


「・・・・・・」



わけわかりません。

しばらく沈黙が続きました。

話をしていないと静かすぎてキィーンと耳鳴りがします。

階段を足で確認する擦れた音と耳鳴りが重なります。

それでも2階の踊り場に段々と近づいて来ました。

それにしても頼りないMですが一緒にいて良かったです。

この状況で一人っきりだったら、怖すぎて気が狂いそうになるかも?

二人で声をかけ合いながら階段を下る・・・

まるで雪山で遭難して下山を試みる登山家のようです。


か〜すけ
「おい、もうすぐ2階に着くぞ。大丈夫かぁ?」



「大丈夫ですよ。やっと2階ですね!」



2階に近づき、灯り足元を照らし始めました。

もうすぐです。

手元も見え始めました。

久しぶりに自分の手とご対面。

ちょっと震え気味です。

そして到着!

やっと2合目避難小屋…じゃなくて、2階の踊り場に着きました。


か〜すけ
「よし!着いたぞ!」



「はいっ!着きましたね!」



二人で喜びます。

我々は少しずつですが着実に前へ進んでることを実感しています。


か〜すけ
「よし、この調子で1階に行くぞ」



「はい!行きましょう」



ただ今度は、ちょっとの心配があります。

1階には当然踊り場が無いので灯りがありません。

これからは真っ暗闇に向かって階段を降りなければなりません。

目標が無い…先に歩くのは辛いです。

でもMに先に歩けと言ったら、まるでσ(^_^;がビビってるように

思われちゃいます。

まぁ実際、さっきからビビりまくりなんですが。


か〜すけ
「んじゃ、行くぞ」



「はいっ!」



ったく「はい」じゃねーよ。

「今度は俺が先に行きますよ」くらいのこと言えねーのか、コイツは!

心の中でブツブツつぶやきながら、先になって1階へ向かいます。

多少余裕というか先が見えてきたので、さっきまでは思いもしなかった

余計なことを考えてしまいます。

人の心は汚いです・・・って、σ(^_^;か!?

ノリツッコミが出来るくらいの余裕で下へ降りていきます。

先ほどと同じように足で階段を探り、確認しながら降ります。


か〜すけ
「M、ちゃんと来てるよな?」



「大丈夫です。いますよ」



一応、声を出して確認します。

相変わらず真っ暗ですが、なんとなく慣れてきたのでスムーズ

進んでいました。

全然見えないけど、そろそろ1階に着く頃かなぁ?

と思っていた矢先、突然σ(^_^;に不幸が訪れました。

片足で階段を確認して、もう片方の足を進めて体重を移動した瞬間。

頭に「ガン!」と大きな衝撃が!


うごっ!!


今度はが出てしまいました。

とっさに手すりにしがみつき、うずくまります。

暗闇なのに目の周りだけが明るい。

チカチカキラキラお星様。

でも何も見えない。



「ど、どうしたんすか!?」


か〜すけ
「・・・・・・」



「かーすけさん?かーすけさぁ〜ん!!」


か〜すけ
「いててて・・・頭をおもいっきり何かにぶつけた・・・」



「大丈夫っすか?怪我しましたか?」



ぶつけた頭に手をやりが出てないか思わずそのを見たけど

真っ暗。

見えるわけがない!

見えたらこんな苦労はしていない。


か〜すけ
「気をつけろよ。何か上にあるぞ」



「は、はい…あっ!これですね。木の枝…っていうか木ですよ、これ」



σ(^_^;はに頭を、しこたまぶつけたらしい。

どおりで痛いわけだ。

それにしても非常階段で頭の位置に木があるなんて・・・

こんなトラップ、いったい誰が考えたんでしょう?


か〜すけ
「これが本当に夜の火事かなんかで、みんながパニックになりながら
 非常階段を降りてきたら、この木で死人が出るぞ!」


「・・・・・・」


か〜すけ
「まったく木の1本や2本、ちゃんと切っとけよ!」


「・・・・・・」


か〜すけ
「っていうか、灯りをつけろ!灯り!」



「・・・・・・」



σ(^_^;は怒り全開。頭もまだズキズキ痛い。


か〜すけ
「おい!M!聞いてんのか!?」



ヤツ当たりです。

今回Mは悪くありません。



「聞いてます、聞いてます!ひどいですよねぇ〜」


か〜すけ
「だろ?このホテルしょーがねぇよな!」


しょうがないのは、ここにいる酔っ払い二人のほうです。

たぶん間違いありません。

文句ばかり言っていても1階には着かないので、気を取り直して階段

をまた降り始めます。

すると4〜5段くらい降りたところで階段が無くなりました。

階段が朽ち果てて無くなっている訳ではありません。

どうやら1階に着いたようです。

しかし、さっきの頭をぶつけた木のこともあるので素直に喜べません。

なぜか冷静です。

足で地面を探ります。

でも、階段とは違う感触。

今度はしゃがんで手で触ってみます。

この冷たくて堅い感じは・・・もしかしてコンクリート?

すると急に背後から大きな声が。



「あっ、1階だ!1階に着きましたよ!」


か〜すけ
うわっ!!きゅ、急に大きな声出すなよ」


「す、すいません・・・でも1階に着きましたよね」


か〜すけ
「あぁ〜そうだと思うけど、念のため地面を確認していたんだよ」



「向こうに灯りも見えますから、たぶん大丈夫っすね」



ん?灯り?Mの言葉で前を見ると、遠くに灯りが見える。

その灯りは建物の角をうつし出している。

灯りを見れば、ここが1階なのは間違いない

足元ばかり気にしていて灯りに全然気がつきませんでした



「さすがですね。1階に着いたのに冷静なんですね」


か〜すけ
「ま、まあな…念には念を入れてってとこだな」



苦しい言い訳です。

思わずかぁ〜っと赤面しちゃいましたが、暗いので悟られません。

この時だけは暗闇で良かったです。

それからは右側のホテルの壁づたいに真っ直ぐ歩きました。

足元は見えませんが、目標の灯りがあります。

2階から1階に降りてきた、さっきの暗闇に比べれば楽勝です。


か〜すけ
「よし、もうすぐ玄関にたどり着けるぞ」



「はい!やっと玄関ですね」



二人とも明るく声を掛け合います。

そして段々と明かりに近づき、ついに建物の角に来ました。


か〜すけ
「やっと着いたぞ〜」



「良かったぁ〜着きましたね〜」



二人で喜びながら角を曲がったら、そこは・・・



やっと1階にたどり着いた酔っ払い二人。

角を曲がったらそこは玄関?それとも?

続きは「社員旅行(後編)」をご覧下さい。



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