社員旅行(後編)
やっとこさ1階に到着して、灯りがある建物の角まで来ました。 その角を曲がればホテルの玄関がある! 二人とも、そう確信して喜びながら角を曲がりました。 がっ!そ、そこには! 赤やら黄色やら緑やら・・・ カラフルに化粧をした観光バスがいっぱい。 か〜すけ 「うっ、なんだこりゃ!?」 M 「・・・・・・」 そうです。そこは観光バスの車庫でした。 ほのかな灯りは車庫の奥の常備灯が照らした灯りでした。 か〜すけ 「こりゃあ・・・出られないんか?」 M 「きっと、行き止まりっすよ・・・」 先ほどまで喜んでいたので二人の落ち込みかたも大きいです。 σ(^_^;はもうどうでもいいや!っていう感じになってきました。 か〜すけ 「灯りもあるし屋根もあるから、ここに泊まっちゃうか?」 M 「えっ〜!本当にですか?」 か〜すけ 「だってしょーがねーじゃん!もう面倒くさいしよぉ」 M 「・・・・・・」 なげやりな一言でMは黙ってしまいました。 さっきまでは真っ暗な非常階段。今は屋根付きの灯りがある車庫の中。 たしかに状況は良くなっていますが、解決した訳ではありません。 でももう疲れちゃいました。 σ(^_^;はため息をつきながら、ゆっくりと車庫のコンクリートの上に 直接座り、バスの大きなタイヤに寄りかかりました。 前に止まっている観光バスを眺めて バスってこんなに大きかったんだなぁ… 50人も人を乗せるんだから当たり前かぁ… などと、どうでもいいことを考えていました。 そんなボケ老人化したσ(^_^;をMが心配そうに覗きこみます。 M 「かーすけさん、本当にここに泊まるんすか?」 か〜すけ 「・・・・・・」 M 「出口を探しましょうよぉ」 か〜すけ 「・・・・・・」 Mの心配そうな顔・・・ やっとホテル内に戻れると思ったのに着いた場所はバスの車庫。 そんなショックな状況から、ここに泊まるなんて言っちゃいましたが この気温・この浴衣姿では凍死してしまいます。 寒さのあまり、Mと抱き合って夜を過ごす…想像しただけでも悪寒が 全速力で走ります。 これじゃあ、マズイ!気を取り直して再出発しようと考え直しました。 か〜すけ 「冗談だよ、冗談。さ〜て、出口を探すぞ!」 M 「は、はいっ!行きましょう!」 大きな観光バスの間をジグザクに歩き、出口を探し始めます。 そ、そして!出口が見つかりました!?所要時間30秒! か〜すけ 「あれ?ここって外じゃん!?」 M 「あー!外ですよ、外!」 バス3〜4台の横を歩いたら、そこは出口でした。 っていうか、さっきから車庫の中じゃなくて外にいたんです。 確かに常備灯がある奥は完全な車庫です。間違いありません。 その車庫の延長沿いの手前は、車庫と同じ材質で同じ高さの屋根が あったんです。 しかもホテルの入口側からバスが見えないように、屋根というか天井 までの大きな壁があって・・・ 奥の小さな常備灯のうす暗い灯りでは周りがよく見えませんでした。 そして屋根と壁、大きな観光バスに囲まれて完全に勘違いしてました。 よく考えてみれば非常階段を降りてきて、そこが行き止まりの車庫 だったら非常階段の役目が果たせません。 本当の災害の時、シャレにならない事態になっちゃいます。 か〜すけ 「そーだよな、非常階段なんだから外に繋がってるよな」 M 「そうですよ!非常階段なんですからね」 二人でニヤニヤ笑いながら、走りづらいスリッパでペタペタと怪音を 響かせて玄関に向かいます。 もう嬉しくて嬉しくて、そのうちニヤニヤだけでは収まらず、二人で 「ははは…」と笑いながら走ってました。 まるで誰もいない秋の浜辺で笑いながら追いかけっこをしている アベックのようです。 女「もう、先に行っちゃうわよぉ〜」 男「よ〜し、すぐに追いつくぞぉ〜」 女「うふふふ・・・」 男「はははは・・・まてまてぇ」 ってな感じです。 現実は浴衣の前をはだけて、スリッパが脱げないように小股で 夜のホテル前を走る怪しい男二人なんですけどね。 まぁ見た目はともかく、幸せいっぱいの我々二人を明るい庭園灯も 応援してくれてます。 階段踊り場の灯り、バスの車庫の灯り、そんな物とは比べようもない くらいの明るさです。 もう眩しくて、眩しくて…青春時代に好きだった「あの娘」を見ている ような眩しさです。 植木と庭園灯に囲まれた、クネクネと曲がったホテル前の散歩道 か何かでしょうか? そこを二人で笑いながら走り、ホテルの玄関に向かいました。 か〜すけ 「よし!やっと戻れるぞ!」 M 「戻れますね!もうすぐ玄関ですよ!」 思えば長い戦いでした。 ちょっとした好奇心で階段の踊り場に出ただけなのに、まさかこんな 大冒険をすることになるとは思ってもみませんでした。 でもその冒険も終りです。 ホテルの明るい玄関は目の前にあります。 あとはあの自動ドアをくぐればホテル内に戻れます。 と・・・ま、まてよ!? この格好で、玄関から入って大丈夫なんだろうか? 腹を減らした猫がカルカンにまっしぐらに向かうように、玄関に 向かって笑みを浮かべながら、まっしぐらなMを呼び止めます。 か〜すけ 「おい、M。この格好で玄関から入るのはマズイんじゃないか? たしかにこのホテルの浴衣だけど、スリッパのままだし… フロントの人に呼び止められちゃうんじゃないかな?」 M 「そ、そう言われれば…そうっすね。マズイですよね!?」 考えてみれば変です。 玄関から出ていった人がまた戻ってくるなら問題はありませんが この時間に玄関から出て行ってない人が突然入ってきたら怪しいです。 間違いなくフロントの人に声をかけられちゃうでしょう。 でも入口は玄関しかないようだし・・・ 木の陰に隠れて作戦を練りますが、良い方法は見つかりません。 か〜すけ 「もうあれだな。強行突破しかねーな」 M 「強行突破?…って、どうするんですか?」 か〜すけ 「走ると変だからな、早歩きでフロント前を一気に通り過ぎようぜ。 声をかけられても聞こえないふりをしてさ」 M 「それで大丈夫ですかね?」 か〜すけ 「まぁダメだったら、正直に非常階段のことを話すしかないよ。 でも格好悪いし、会社が何か言われてもマズイからなぁ〜」 M 「わかりました。そうしましょう」 二人で息を合わせて玄関突入強行突破作戦開始です。 スリッパが脱げないように細心の注意を払いながら、玄関に向かって ペタペタと走ります。 自動ドアが段々と近づいて来ます。 フロントが見え始めましたが、灯りはあっても人影は見えない。 よし、よし!! このまま突破すれば問題無し! 心の中でガッツポーズをしながら更に進みます。 そして大きな自動ドア前に到着! フロントには、やはり人はいない。 (一気に中へ入るぞ!) 目でMに合図をして、自動ドアからホテル内へ! 自動ドアからホテル内へ・・・ 自動ドアから・・・ 自動ドアが・・・ ドアが・・・ 開かない! 開きません! 自動ドアは、うんともすんとも動きません! か〜すけ 「げっ!開かねーぞ、これ!」 M 「あぁ・・・開きませんよぉ、このドア」 |
神様は我々に、どこまで試練を与えるつもりでしょうか? 続きは「社員旅行(完結編)」をご覧下さ〜い。 |